読書逍遥

読書逍遥第216回 『オランダ紀行』(その5)街道をゆく35 司馬遼太郎著

冨田鋼一郎

『オランダ紀行』(その5)街道をゆく35 司馬遼太郎著

今回は、イギリスから飛び立った飛行機でオランダ国土を見下ろし、着陸した時

まだオランダに着く前なのに、美しい詩的な文章が続く

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眼下で海がおわり、陸の灯が見えてきた。
高度をさげるにつれて、闇の地上に、立体なのか平面なのか、黄金の千代紙をあちこちに置いたようなものが輝いている。

どうやら、灯の入った温室らしい。
トルコ原産のチューリップを観賞用につくりあげたこの国は、いまも花を世界に売る国である。

温室が、夜の風情をつくっているのは、無用の灯がないからにちがいない。

[そして、着地の際の表現]

英国人機長による飛行機が、紙風船が地に触れるようなやわらかさで、着陸した。

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″紙風船が地に触れるようなやわらかさで″
うまい!手に取るように分かる

こんな文章に出会うと呼吸がゆるやかになる

「夜の風情」
“夜の静寂(しじま)”という言葉があった

もうこの言葉は絶滅危惧語になってしまったようだ

コマーシャリズムに毒されて、「不夜城」を文明の証しと勘違いしてしまった日本

東京のケバケバしいネオンには反省させられる

夜も昼間のように明るいマジソンスクエアガーデンが、文明のたどりついた理想の街だとアメリカ人が勘違いしたのと同じ

都庁第一本庁舎のプロジェクションマッピング「TOKYO Night & Light」は、この無神経さの延長にある

[ルリマツリ]
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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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