読書逍遥第279回『中国・江南のみち』(その9最終) 司馬遼太郎著
冨田鋼一郎
有秋小春
更に晩秋の句。
⭕️行秋や梢に掛るかんな屑 丈草
季語 行秋(晩秋)
屋根替、垣手入、家普請は、春の農繁期前と、秋の収穫後に見られる風物詩だ。春普請、秋普請という季語も立ててみたくなる。
かんな屑は家を建る時に出る削り屑。「土洗い」「秋仕舞い」。
秋の普請のあとは新米で餅をついて、田の神を祀る。その後は夜なべだけとなる。
蕪村にもかんな屑の句がある。こちらは春の普請だ。
⭕️山吹や井出を流るヽ鉋屑 蕪村
「蕪村全集」解釈
山吹が美しく咲き、蛙の声も聞こえてきそうな井出の玉川に、上流に普請でもあるのだろうか。一片のかんな屑が流れて来る。ひょっとすると、能因法師が自慢した長良の橋のかんな屑かもしれない。そんな風流な思いに誘うめでたい陽春の景。
昔の人は、自然の恵みに合わせて、季節の移ろいにさらされて暮らしていた。なんと味わい深く、しみじみとした情感を伴っていたことか。
今や家普請は、そこらで季節に関係なく年がら年中騒音を撒き散らしている。味も素っ気もなくなった。
秋の穏やか光を浴びる南天の葉