読書逍遥第232回 『オホーツク街道』(その2) 街道をゆく38 司馬遼太郎著
『オホーツク街道』(その2) 街道をゆく38 司馬遼太郎著
黒竜江(アムール川)とオホーツク海の流氷の関係について
オホーツク海のありがたさを感じる
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黒竜江がオホーツク海に注いでいる。
その水量が多すぎるのと、オホーツク海が陸地や列島で囲まれて、いわばおけ状を成しているため、淡水が絶えず海水の上層をなしている。
上層の淡水が凍って、オホーツク名物の流氷が作られているのである。
いわば黒竜江は、オホーツク海の流氷製造にとっては、重要な装置である。
中国人(漢民族)にとっては、黒竜江は、中国文明を育てた万里の長城の内側から、はるかに離れた夷狄の野を流れている。
そこに住む夷狄の代表格が、隋唐時代の中国人にとって、靺鞨(まつかつ)と呼ばれていた人々であった。のちに「女真」と呼ばれるようになる。
中国人が靺鞨というようなひどい文字を当ててきたのは、古来お家芸とも言うべき中華思想による。
自分だけを文明とし、他を野蛮と見る思想である。このため、辺境の民族には、ケモノ扁や皮扁、ときに豸(むじな)扁が当てられる。
黒竜江は全長4350キロで、世界第6位だそうである。その源は遠くモンゴル高原に発していて、ついには樺太の北部の山々を見る韃靼海峡に向かい、大きなホースのように流氷の原料(?)をそそぎ続けている。
オホーツク海の冬の名物の流氷は、風や海流で動き、樺太から南下してきて、ときに海いっぱいを覆う。
紋別は流氷の名所である。流氷は単に地球物理学的現象ではなく、我々生き物にはありがたい現象らしい。
流氷の下面には、魚の喜ぶ藻類や、プランクトンなどの微生物の増殖が著しく、魚類の繁殖に役立っているそうである。
親潮のこともよくわかった。千島海流が”親”と言う名をつけて呼ばれてきたのは、栄養塩に富んでいて、サケ、タラ、カニなどを養ってくれるからである。
親潮ができあがるのは、カムチャッカ半島の東のほうの海らしい。その海域へ北極海から海水が、ベーリング海峡を経て流れ込む。北極海の海水そのものがプランクトンを多く含んでいて、栄養に富んでいるそうである。
むろん、オホーツクの流氷の下で繁殖したプランクトンも千島列島沿いに流れおちてくる親潮に、太平洋で合流する。
パノラマを見ていると、地球に棲んでいることのめでたさを感じてしまう。