第97回 『そして、自分への旅』森本哲郎著
冨田鋼一郎
有秋小春
副題 「宮廷画家、ベラスケスの栄光とスペイン・ハプスブルク家の落日」
ヨーロッパ各地で主にバロック絵画を観てまわる。たどり着いたのがディエゴ・ベラスケス。
17世紀スペイン・ハプスブルグ家がなぜオランダ、イギリスに覇権を奪われることになったか、歴史のうねりの一端も伺う。
目に留まった個所がある。
著者はこれまで「終わった人」だったかもしれない。生きる目的、情熱の対象を失ったのではないか、との思いに至る。
愛読書トーマス・マン『ヴェニスに死す』は、主人公の生まれ変わりの物語。
これを自分の生き様に重ねて、美術館巡りに「人生の転機」を見出そうとする。
[柳澤一博]
1954年生まれ。映画評論家。