読書逍遥第165回 『HORIZONS 科学文明の起源』(その8最後)ジェイムズ・ポスケット著
『HORIZONS 科学文明の起源』(その8最後)ジェイムズ・ポスケット著
21世紀は、二つの超大国による第二の新冷戦の時代として始まった。
「今日われわれはグローバルな歴史における次なる重要な瞬間に生きている。2000年代末以降、世界は新たな冷戦に突入したと言っていい。
その中核にあるのは経済・政治・軍事の覇権をかけた中国とアメリカ合衆国の戦いである。
2007年から08年の金融危機によって、アメリカ合衆国と中国の経済格差は劇的に縮小し、2010年中国は日本を抜いて世界第二の経済大国となった。
そして2010年代初頭、経済成長の持続と天然資源やエネルギーの確保のために、世界中に手を広げ始めた。その極め付きが2013年に始動した一帯一路構想。
大方のアナリストはアメリカ合衆国と中国ばかりに目を向けているが、この新冷戦は20世紀の最初の冷戦と同じくグローバルなものであることを認識する必要がある。
今日の科学の世界を理解するには、グローバリゼーションとナショナリズムの関係に注目する必要がある。
1990年代の政治家や科学者は、グローバリゼーションによって世界はもっと平和で生産的になり、それによって過去の不平等は一掃されると無邪気に信じていた。
人々を結びつけることで、我々はもっと豊かに、もっと国際的になるとされていた。しかしその見立ては間違っていた。
グローバリゼーションによって、国家間の不平等は一部縮小したものの、ほとんどの国の国内では、むしろ不平等が拡大している。
中国とアメリカ合衆国の全体的な経済格差は縮まったかもしれないが、アメリカ合衆国では上位10%の富裕層の資産と所得が1990年代よりも増えている。中国でも同じで、億万長者の人数はアメリカ合衆国を除いて、他のどの国よりも多い。
このような不平等の拡大によって、ナショナリズムが再び勢いづき、グローバリゼーションの支持者が思い描いていた世界主義的な未来とは正反対な方向に向かっている。
ここ10年を見ても、イギリスがEUを離脱し、ドナルド・トランプがアメリカ合衆国大統領に選出され、インドでインド至上主義が復活し、ラテンアメリカ一帯で右翼政治指導者が台頭している。
☆☆☆☆
ソビエト崩壊で世界はバラ色になると喜んだのも束の間。新たな混迷期に生きている。歴史に何も学んでいないはずはない。
ダニエル・ヤーギン 1990年ベストセラー『市場対国家The Commanding Heights』では、「経済・社会の主導権を握るのは、市場なのか、それとも国家か」の視点で世界を著述した。
本書『HORIZONS 科学文明の起源』では、科学の未来の進歩をグローバリゼーションとナショナリズムの相剋の中に据えて展望する。
最後のページまで来て、深く深呼吸する。
人って何だう? 人間の営為の積み重ねが世界をつくる。人ってすごい!