読書逍遥

第8回 蕪村句「東西、南北」

冨田鋼一郎

菜の花や月は東に日は西に 蕪村

菜の花の季節になった。コロナ禍で世の中騒然としてるが、季節は巡ってくる。
一面黄色の絨毯、早春の薄曇りの空の色とのコントラストが鮮やかだ。東西の両極を取り込んだことで、広大な空間と奥行きを捉えることに成功した。僅か十七文字の短詩であっても自在さを見てとれる。

蕪村は、漢詩に学んだ対句的表現が多い。東西南北を取り込んだ句はほかにもある。

梅咲くや南すべく北すべく 蕪村

探梅の楽しみ。さて今日はどっちへ出掛けるとするか。

西吹けば東にたまる落ば哉 蕪村
北吹ば南あはれむ落ば哉 蕪村

何か人生の寓意か、禅問答めいて

月光西にわたれば
   花影東に歩むかな 蕪村

俳諧の自在を問われてこんな句も作った。

広い世界を見据えるのは、蕪村だけではない。豪放磊落、其角にもこんな句がある。

いなづまやきのふは東けふは西 其角

上田秋成が蕪村の訃報に接して

かな書きの詩人西せり東風吹て 無腸

このように日のもとの俳諧の自在さは、世界に誇れる世界遺産だ。

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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