読書逍遥第117回 読書逍遥『文明の庫(くら)』芳賀徹著(その3)
冨田鋼一郎
有秋小春
笑顔を絶やさない人だが、眼光は鋭い。人間という存在のもつ底知れなさを畏怖と驚きをもって身続けた人。
子どもの本をじっくりと読んで、自分の心と向き合う。こんな作業をしたことがなかった。
■著者からのメッセージ
心に関心を持つ人が増えてきた.「本を端から端まで読んでほしい!」という願いをこめて,こんな企画を考えてみた.じっくり一冊を読んでこそ著者の心が伝わり,自分の心のこともわかってくる.私にそのような貴重な体験をさせていただいた本――子どもの本も絵本も――を取り上げて,それについて語りながら,人間の心のあり方について考えてみたい.
その中からひとつ。
ルーマー・ゴッデン 『ねずみ女房』
家ねずみの夫婦の女房ねずみはなぜか、自分にないものが気になる。「自分の知らない何か。けれども、大事なことがあるのだ」。
そしてハトと知り合い、ハトは飛ぶのだといわれると、飛ぶということがわからず、思い悩んだあげく、最後、ハトの入っているカゴの扉をあける。
ここのところ、ほんとうに素晴らしいと思うのは、「あれが飛ぶことなんだ!わかった!」と言うのと、「ハトがいなくなる」というのとが、一緒なんですね。
人間ていうのは、ほんとうに大事なことがわかるときには、絶対に大事なものを失わないと獲得できないのではないかなと僕は思います。