第54回『神のアルバム』森本哲郎
冨田鋼一郎
有秋小春
宅に出入りの植木屋の漱石追想
漱石は、日頃から庭の草木を観察していた。
出入りしている植木屋を呼んで、一つひとつ説明させ、手帳に書き付けていたという。
庭に植えられていたのは、
隠れ蓑 椿 比翼ヒバ 銀杏 檜 百目柿 楓 錦糸梅 他行の松 小梅桜 芭蕉 竜の髭 木賊 金蓮花 雁来紅(葉鶏頭) 雛芥子(虞美人草) かんな(壇特) 浜菊 美女柳 君子蘭
ふたりの「美女柳と錦糸梅」のやりとり。
☆☆☆
「あそこにある、あの黄色い花は何だ」
「あれは錦糸梅です」
「何時か錦糸梅だと云ったのとは、葉が違うじゃないか」
「あそこにある黄色い花はと云われるもんだから、うっかりそう答えたのです。ああ、あれなら美女柳です。間違えました」と言い直しました。
「知らないことは知らないと云え、間違えては困る」
☆☆☆
これらの普段の努力が小説の描写に活かされるこのになる。
芭蕉と木賊を特に愛した漱石。屋敷跡は、新宿区立漱石山房記念館になっている。
[金糸梅]