読書逍遥

読書逍遥第131回 『偉大なる美しい誤解〜漱石に学ぶ生き方のヒント〜』冨田鋼一郎著 2018年刊

冨田鋼一郎

『偉大なる美しい誤解〜漱石に学ぶ生き方のヒント〜』冨田鋼一郎著 2018年刊

今回、漱石講演の準備のために自分の本を手にした。
五年前、70歳で出した私の初めての本。60歳代の10年間を総括するつもりだった。

大学の教壇に立った体験を重ねながら、漱石についての社会人向け講演会で自由に語ってきたことを、書き上げたもの。

産み(執筆・脱稿)の苦しみを味わったこと、また、出版プロセスを垣間見ることができたことはよい思い出だ。とにかく形にすることが出来て嬉しい。

筆者の立場になって、世の中に溢れている本はどれも、このような作業を経ていることを知り、もっと書物に敬意を払わなくてはいけないなと反省した。

とくに帯文の言葉をどうするかに苦労したのは懐かしい。かなり気に入っている。

「自己の生き方を探らんと欲する者に、漱石を読み解いたこの書物を奨む」

完売できたのは、この帯のおかげかもしれない。それほど題名と帯文には神経を使う。

「自己の生き方を探らん云々」、実は漱石の言葉をなぞったものである。

漱石は『こころ』を刊行するにあたり、出版社から宣伝文を相談された時、次の言葉を提案した。

「自己の心を捕へんと欲する人々に、人間の心を捕へ得たる此作物を奨む」

すごい言葉だ。精魂込めて書き上げた自信作の『こころ』を世に出すに相応しい宣伝文だったと思う。

最近、漱石の代表作はやはり『心』だと思うようになった。

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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