読書逍遥第128回 『リスボン大地震』ニコラス・シュラデイ著
『リスボン大地震』ニコラス・シュラデイ著
副題 ’世界を変えた巨大災害’
原題 The Last Day
Wrath, Ruin, and Reason in the Great Lisbon Earthquake of 1755
日本では今年は関東大震災から100年、東日本大震災から12年となる。今年はトルコ南部、モロッコマラケシュでも地震があった。
本書は、1755年グローバル都市リスボンの機能全てを壊滅した大地震とその影響についてのノンフィクション。
原題は「最後の日」とあるが、「時代を画する新しい時代の到来を告げた日」とする方がふさわしい。
大航海後ヨーロッパ最大級の富と活力を最初に備えた都市が破壊された。相互依存が進んだグローバル経済中心都市だ。
社会、政治、経済、宗教、思想、文化、科学、技術、生活などあらゆる面で強い影響を与えたことで、世界史的に特異な地位を占める。
[リスボン地震の異なる見方]
取り返しのつかない悲劇として
中世から近代へという歴史的転換点として
またとないチャンスとして
ポルトガルの歴史を俯瞰した上での著述で、理解し易い。
・前例のない複合災害(地震、火災、津波)
・国に新しい責任が賦与(国民保護、日常回復、都市整備)
・国外からの支援の高まり
・実証的近代地震学の始まり
・支配層(教会・貴族)既得権とのせめぎ合い
・思想・哲学へのインパクト
・ブラジルからマレー諸島までの広大な帝国管理の重圧
・ユダヤ、ムーア(イスラム)との軋轢
・教会支配下での自然観(世界で起こる事象は全て神の意思による)への疑念の高まり
・’神は正義である’との最善世界観(オプティミズム、==いかなることであろうとも、それは正しい」への深刻な疑念の高まり
・敬虔なカトリック教徒たちの度を超えた信仰心、偶像崇拝、根深い迷信。
・奴隷活用、結果として人種混交進展でメスティソ誕生
・急激な富の蓄積が、持続的発展(国内産業育成)に繋がらなかった教訓
→「線香花火の輝き」に見える。
我々日本の受け止めるべき教訓は?
ブラジル、パラグアイ、モザンビーク、アンゴラ、アゾレス諸島、ゴア、マカオ、マラッカ
ブラジルの金鉱脈
香辛料、金、木材、武器、砂糖、タバコ、奴隷
ポルトガル
他国ではデカルト、ニュートンらの科学的な考え方の啓蒙主義が浸透しつつあったが、敬虔なカトリック教徒たちの未だに度を超えた信仰心、偶像崇拝、根深い迷信。
カルヴァーリョの活躍
迅速な救援活動
疫病対策
黙示録の災厄 リスボン大脱出
「黙示録に語られている災厄をもたらした罪の数々を悔い改め、神の怒りがいま一度解き放たれる前に、呪われたリスボンを遺棄せよ」、
生存者の意識をひたすら改悛の祈りに向けさせる扇動的な説教
→ガザ地区のカオスに似る
モロッコのタンジュ、アガディールまでも沿岸の街は破壊。内陸のメクネス、フェズも同様。
ヨーロッパ各地まで地震は感知
カリブ海の西インド諸島バルバドス島、マルティニク島の被害
1693シチリアカターニァ
1746ペルーリマ
1761ハイチポルトープランス
支援の輪広がる 集合的な同情心
イギリスジョージ二世支援
スペイン
ハンザ都市ハンプルグ
自然災害が国際的な支援の波を引き起こした最初の例。外国を支援することなど考えられない時代
軍事・政治同盟と商業上の利害の共有、旅行・通信手段の向上でヨーロッパ諸国の相互依存の度合いが加速度的に強まっていった時。
無反応
フランス オランダ
無法状態の収束(死者の処理、水食料確保、疫病蔓延防止)
日常の回復(行政、経済、教会)
都市建設の長期ビジョン
世界最古のコインブラ大学
「名ばかりの黄金時代」と言われる。
歴史のなかで線香花火のように一瞬煌めいた。
日本は、戦後の復興・高度成長期から世界第二の経済大国になり、2011年の東日本大震災を体験した。
今の日本にヒントがある筈だ。日本の戦後に準えられる。
1755年(宝暦5年)鎖国最中の江戸中期、はるか遠くポルトガルリスボンの災害は日本には無関係と思われるが、さにあらず。
(その1)
‘集合的な同情心のはじまり’について