読書逍遥

第27回『スコットランドの漱石』多胡吉郎

冨田鋼一郎

『スコットランドの漱石』多胡吉郎

今から120年前の1902年秋に漱石が辿ったスコットランド(ピトロクリ)を、筆者が
訪ねて、漱石の想いを探る。

「ピトロクリの谷は秋の真下にある。十月の日が、眼に入る野と林を暖かく色に染めた中に、人は寝たり起きたりしている。///いつ見ても古い雲の心地がする。」

漱石『永日小品』の「昔」冒頭より

「秋の真下」「古い雲の心地」。驚くべき表現だ。
漱石の視点は目の前に広がる谷に固定して動かない。
「漱石が四辺の風光の美しさの中に溶け込んでしまっているような、美しい小品–漱石が西洋のことを書いたものの内で、恐らく無比の美しさを持った小品」(小宮豊隆)。
ロンドン留学から帰国して6年後に書いた。よほど心のカメラに焼き付けたのだろう。

本書は、単なる歴史探訪ではない。
漱石のこの2週間ほどの旅が、帰国後の作家への道と『草枕』誕生の発端となっていることを、漱石似の抑制の効いた文体で綴る。

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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