読書逍遥第189回 『細胞』(上・下) (その8)ジッダールタ・ムカジー著
冨田鋼一郎
有秋小春
子規のいた明治時代には、江戸俳諧ものはこのような袖珍本の形で読まれていた。愛すべき一冊。
炭太祇(たんたいぎ)の句 その2
句のなかに、助詞「と」を自在に扱うことにかけて、太祇の右に出る者はいない。こまやかな情趣を詠んだ人事句の名手、太祇。
な折そと折てくれけり園の梅
「な折そと」
「あっ、そこの枝は折らないでと」別の枝を折ってくれたその家の主人。「折てくれけり」には、枝を失敬しようと腕を伸ばした通りがかりの人の、見つかってしまったきまり悪さ、恥ずかしさ、申し訳なさ、ありがたさの全てが凝縮されている。
東風吹くと語りもぞ行く主と従者(ずさ)
「東風吹と」
「どうやら、東風が吹いてきたようでございます」と語りあいながら街道を歩む主人と付き人。春到来だ。
歩行(かち)の旅ならではの会話。新幹線では決して交わすことができない。文明で失ったもののひとつ。
どれもドラマの一場面になる。