読書逍遥

読書逍遥第145回 『超個人主義の逆説』山本龍彦著

冨田鋼一郎

『超個人主義の逆説』山本龍彦著

副題 ’AI社会への憲法的警句’

面白い視点を聞くことができた。

現在の「生成AIを含む急激な情報化革命」は、200年ぶりの《産業》革命ではない。
むしろ、500年ぶりの《精神》革命と捉えるべきであるという。

《精神》の革命の方がよほどインパクトが大きい。

500年前のルネサンスと宗教改革は、主権者を「神から人間へ」という大転換をもたらした。

それまでは神と教会(その解釈者である)が主導権を持った「我々が決められない世界」だった。
それからは個人の尊敬と自由を最大限に認める「我々が決める世界」へ転換した。

今回の「生成AIを含む急激な情報化革命」はどうか。革命の内容とは、
①プライバシーの概念を過去のものとする
②頭のなかの認知過程を透明なものする
③我々の心をハッキングする

図式化すると、
(原始社会)
人は神と教会に従属した「我々が決められない世界」

(15、16世紀ルネサンス・宗教改革によって)
個人の尊重を基礎に「我々が決められる世界」へ転換

(生成AI情報化革命)
意思決定の主体は、個人からAI(アルゴリズム)とその解釈者のプラットフォーマーに譲り渡される。

「超個人主義」なる言葉をみると、漱石の講演「私の個人主義」を思い出す。

個人主義に試練を及ぼす情報化革命。著者は憲法学者として、この革命が現行憲法の理念に対してどのような影響を与えうるのかを検討している。

スポンサーリンク

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
記事URLをコピーしました