読書逍遥

読書逍遥第210回 『文化力 日本の底力』2006川勝平太著

冨田鋼一郎

『文化力 日本の底力』2006川勝平太著

読みながら、以前ノートに次のような言葉をメモ書きしたことを思い出した

メモは誰の言葉だったか思い出せない

川勝氏はこのメモでいう「文明」ではなく、「文化」を重視した

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文明:普遍的なもの、誰もが参加できる交通ルールのようなもの

文化:特異なもの、不合理なもの。それなしでは人間の心の安定が得られないもの。

[多数者には文明しかない。少数者にはびっしり文化が詰まっている]

☆☆☆

川勝氏が、リニア新幹線掘削に待ったをかけた理由のバックボーンを見つけた

それは、これからの日本は「文化力」を育てる「富国有徳」にありとの信念だ

JR東海に楯突くのが目的でなく、東京中心の中央集権体制がめざした「富国強兵の力の文明」から脱却を問題提起したかったと理解した

川勝氏はリニア問題提起によって、県知事としての権能を利用して日本の現実を理想に引き上げようと孤軍奮闘した、現代のドン・キ・ホーテだったようにみえる

リニア開通を先延ばしにしてこれでよし、得られた時間でこれからの日本のあるべき「富国有徳」社会を皆に考えてもらえるよう一石を投じたのだろう

彼も、ユングのパーソナリティタイプ論で直感を重視する生粋の「インテューイター」だ

まず理想から行動する「インテューイター」タイプは、現実重視の周りからは浮き上がりがちだ

本書に指摘された言葉を心して書き留めた

@@@@@@

「文化」とはway of lifeであり、ひらたくいえば「生き方」です。富は「より良い生き方」を目指し、生活の質(quality of life)をあげるための手段です。

富を、みずからの人間力をあげるために投資し、「生き方」や「生活の質」をあげるために使うにとどまらず、余裕のある人は、富を人のため世のために用いること、これが文化の向上のために富を使うということの意味です。

問われるのは品格です。経済力とともに、文化力が高くなけれは、物心ともに豊かな国とはいえません。

☆☆☆
さらに、こんな指摘も、

これからの第3のパクス・ヤポニカでは「力の文明」ではなく「美の文明」の方向へ向かう

これまでの科学技術は、森を破壊し、土をコンクリートで覆い、水を工場で汚染して、人間本位の「力の文明」を構築しました。

しかしこれからの科学技術は、森を育成し、土壌を肥やし、せせらぎを回復して、天然の美を重視する「美の文明」の方向へと変わる予感があります。

それを率先する形で日本文明も、東京中心の中央集権体制がめざした「富国強兵の力の文明」から、脱東京・地域分権によって多様な地域文化が開花する「富国有徳の美の文明」へと変わる努力が求められるものと見込まれます。

@@@@@@

地方分権の掛け声がかき消されようとしている時だからこそ、川勝氏が提起したことに心を留めておく

いつになったら各地方に活力が湧いて、地域の誇りを取り戻せるのだろう

第二のパクス・ヤポニカであった江戸時代(パックス・トクガワーナ)は各藩独自の文化が花開き、お国柄を競ったものだ

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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