読書逍遥

読書逍遥第115回 読書逍遥『ぼくの頭の中』新宮晋著

冨田鋼一郎

『ぼくの頭の中』新宮晋著

[冒頭の言葉]
くるくる自転しながら秒速30キロの猛スピードで太陽の回りを飛び続ける小さな星、それが地球だ。この星には、空気がある。水がある。そして太陽からは、途切れることなく暖かい光が届けられる。それらの全ての要素は、大気の中で攪拌され、循環しながら、地球独特の穏やかな自然環境を生み出している。そのおかげで地球は、多種多様な生命が溢れる、宇宙でもとびっきりユニークな星になった。

ぼくは、こんな星に生まれた。人間として。これは奇跡以外の何ものでもない。

ぼくは、この幸運を楽しみながら、風や水、引力といった自然エネルギーに魅せられて、作品を作り続けている。ぼくの作品は、それぞれ固有の風景や環境、素晴らしい人たちとの出会い、新しい原理の発見といった様々な要因が奇跡的に重なった結果、生まれてくる。一つ一つが掛け替えのない物語のように。

ふと思う。もし地球を訪問した異星人が、お土産に何が良いかと考えた時、ぼくの作品を選んでくれるのではないだろうかと。こんなに地球らしいものは、他にはないという理由で。

☆☆☆
主な作品
・1970大阪万博野外彫刻
・ボストンニューイングランド水族館イルカのカップル
・ジェノバポルトアンティーココロンブスの風
・関西国際空港はてしない空
・広島尾道生口島波の翼
・大阪谷松屋戸田ギャラリー地平線
・ニューヨークメルセデスハウス遠い空
・パリチュルリー公園光のシンフォニエッタ
・イスタンブールマルマラ海スプーンアイランドの風車
☆☆☆

宇宙人への地球のお土産は、「地球らしいもの」の大気と風と水、引力といった自然エネルギーを伝える自分の作品になるだろうと言う。

もっと大気、風、水、引力に思いを馳せよう。

そういえば、太陽系外探査機ボイジャーに搭載された異星人向けのゴールデンレコードには潮騒の録音も入っていた。

「月日は百代の過客にして、行き交ふ年もまた旅人なり」松尾芭蕉

「真の旅人とは、自分の人生を旅だと自覚している人のことである」森本哲郎

芭蕉と森本哲郎の世界観は非常に似ているが、新宮晋さんは多少違う。でも根っ子は同じ。

大気、風と水、引力にかけがえのない地球を感じ、そこで生かされている自分を意識する。

風の音を聞くことは、自分が語りかけてくる声にじっと耳を澄ませることだ。

新宮晋さんは、今強風による大火に見舞われたラハイナ市の惨状を見て、何か作品の検討始めているかもしれない。

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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