読書逍遥第128回 『リスボン大地震』ニコラス・シュラデイ著
冨田鋼一郎
有秋小春
2冊の本が、「自分の物語をつくる」という内容によって結びついた。
『生きるとは、自分の物語をつくること』河合隼雄・小川洋子著
『記憶の科学』リサ・ジェノヴァ著。
先日、河合隼雄について講演した時、「これからの日本人が幸せを掴むには、自分の物語をつくるしか術はない」という言葉を紹介した。
彼は、1990年代中頃のインタビューでこう述べた。
「バブルが崩壊して、終身雇用・年功序列も崩れた。それまでは、皆でお神輿を担いでいれば、それなりの幸せを得ることが出来た。これからの日本人はそうはいかない。
自分の物語を作るしか幸せを得る術はない」。
この言葉は、『記憶の科学』の中では「自伝的記憶」として登場する。
経験にはいつまでも忘れないものとすぐに忘れてしまうものがある。
日常生活のありふれた出来事は、脳はおぼるように出来ていない。よく覚えているのは、特別な意味のある日のこと。
「自伝的記憶」とは。
最も意義深いエピソードがひと続きになって、人生という物語ができている。この一連のエピソード記憶全体を「自伝的記憶」という。
「人生の物語」–人生で起きたことのうち、意義深いものの記憶で出来上がる。
自伝的記憶の内容は、あなたがどんな人生の物語を紡ごうとしているかによって変わる。人は自らのアイデンティティや世界観を満足させるような記憶を貯蔵していくものだ。
思いがけずに両者が繋がったことで、この2冊は記憶に残る本となった。
私はどのような「自伝的記憶」つまり「自分の物語」を作ろうとしているのだろう。手探りしながらでも、物語の意識だけは持ち続けていこう。
この自伝的記憶の物語は、面白いことに、話す相手によって変わる。その相手に自分がどう思われたいかで脚色されるものだ。