読書逍遥

第81回『哲学する子どもたち』中島さおり2016年

冨田鋼一郎

『哲学する子どもたち』中島さおり2016年

良い本を見つけた。
大学新入生の知的レベルが甚だしく劣ることは言われてから久しい。何がいけないのか。きっと中等教育に原因がある。

日本社会は、子どもを大人に育てることに上手くやっているとはとても思えない。教師をがんじがらめに締め付けて、劣悪な職場環境になっている。

公立中学一年のクラスを参観したことがある。最前列と最後列の生徒が紙つぶてを投げあっていた。誰も先生の言うことを聞いていない学級崩壊状態。こんなことが続けば、先生は精神的におかしくならないわけがない。

文科省は、良かれと思ってあれこれ’指導’しているつもりだろうが、かえって手も口も出さない方がいいのではと思ってしまう。
アメリカには、連邦政府に文部省などない。

フランスの教育現場事情を垣間見るだけでも多くのヒントを得ることができる。

日本の中学は「義務教育」の最終段階として中学を小学校とセットとしているが、フランスでは高校とセットになって大学の前段階として位置付けられている。

著者の最も大切な視点は、なぜフランスの中学生は、自分の頭で考え語る力を得るのかに注目していること。

資料批判を通じた論述式の歴史・地理、中高での「第二外国語」、高校での「第三外国語」、政治や言語、芸術や科学に関しての自分の考えを論理的に展開して論述する能力を身につける「哲学」などの授業。これでは高校を卒業するまでに、日本はずいぶんと遅れをとってしまう。

日本とは全く違う授業などを母親の視点で紹介する学びの現場。目から鱗とはこのことだ。

目次
1 子どもを育てるならフランス?
2 式典がないフランスの学校
3 パリのスクールライフ
4 哲学する子どもたち
5 バカロレアがやってくる!

激動の時代に生きる私たち。これからの教育に大切なことは、知識をため込むことではなく、変化に柔軟に対応して、新しいことを学び、馴染みのない状況下でも心の安定を保つ力を養うことだと考える。

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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