読書逍遥

第78回『これは水です』デイビッド・ウォレス

冨田鋼一郎

『これは水です』デイビッド・ウォレス

オハイオ州ケニオン大学卒業式祝辞(コメンスメントスピーチ)。全米リベラルアーツ系カレッジでは著名な大学。

水をテーマにした本かと思って手にしたが、予想に反して好書だった。ウォレスの一言一言が胸に突き刺さって、ノートにメモが埋まる。10年前に読んでいたら、授業で使いたかった。

本書のテーマは、「初期設定(デフォルト)のまま大人になる」ことの戒め。

水のように目には見えないが、今日の話は大切のことだから気づいて欲しいと呼びかける。

「初期設定(デフォルト)とは、来る日も来る日も自分こそが世界の中心であり、自分の当面の感情と欲求が世界の秩序を決めるべきだと無意識に信じ、成り行きに任せること。そうなると毎日が退屈で、イライラして、人いきれに喘ぐ社会人生活を生きていくことになる。

「初期設定」をどうにかして変える作業を、自分自身が選ぶかどうかの問題である。

「ものの考え方を学ぶ」とは、ほんの少しばかり謙虚になり、自分自身と自分の確信に少しばかり「批判的な自意識」を持つこと。

ほんとうは何をどう考えるかコントロールする術を学ぶという事。意識して、心を研ぎ澄まし、何に目を向けるかを選び、経験からどう意味を汲み取るかを選ぶという事。

大文字の「真理」はただ一つ。それをどう見ようとするか、「あなたが決めなければいけない」ということです。これは死ぬ以前のこの世に関わることです。

ウォレスのスピーチのエッセンス。
「デフォルト」のままで生きるようにならないためによく考えておくべきこと。

ほんとうに大切な自由というものは、よく目を光らせ、しっかり自意識を保ち、規律を守り、努力を怠らず、真に他人を思いやることができて、そのために一身を投げうち、飽かず積み重ね、無数の取るに足らないささやかな行いを、色気とはほど遠いところで毎日続けることです。
それが、本当の自由です。

それが、ものの考え方を教わるということです。

スポンサーリンク

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
記事URLをコピーしました