読書逍遥

読書逍遥第174回 『美(うるわ)しきもの見し人は』堀田善衛著

冨田鋼一郎

『美(うるわ)しきもの見し人は』堀田善衛著

大規模な美術展覧会では、人気タレントが録音した解説を耳にしながら会場を巡るのが流行りだが、専門家の要領よい解説を聞いただけで作品を見た気になるのは味気ない。

著者は専門家ではない。世界(ヨーロッパ中心)を訪れ、足繁く美術館を訪れた。
本書で繰り広げられるのは、観念的でなく、堅苦しさのない自由で思い切った発言の数々。

美術鑑賞とは、見る者が作品と一対一で対峙して初めて得るものだ。何を得るのかは、自分に問いかけるしかない。

⭕️アルハンブラ宮殿
南スペイングラナダの高台。乾燥した空気とイスラムの八百年の歴史のなかに佇む。甘美な「アルハンブラの想い出」のメロディが蘇る

⭕️ヴェラスケスの仕事場に私の派遣したスパイ 「ラスメニナス(宮廷官女像)」
画家が描いている画布の裏側しか見えない。何を描いているのか、描き始めか、完成間近か?画のモデルはこちら側にいる

画家は、絵の中からモデルと鑑賞する我々を見ている。その絵を我々が見る。我々は見ているのではなく、むしろ画家に見られているのだ

⭕️楽園追放―アダムとイヴ
「創世記」「園の中に生命(いのち)の樹および善悪を知(しる)の樹を生ぜしめ給り」

「元始(はじめ)に神天地を創造(つくり)たまへり。夕あり朝ありき是首(はじめ)の日なり」

⭕️モナリザには眉がない
この絵は、宇宙(世界)の不気味さと優しさの二つを描いたが、ここに不在なものは神である

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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