読書逍遥第161回 『計測の科学』ジェームズ・ヴィンセント著

『計測の科学』ジェームズ・ヴィンセント著
副題 人類が生み出した福音と災厄
原題 Byond Measure 2022刊
昨年、時間を計る極微の単位「アト秒」がノーベル物理学賞を受賞した。様々な単位がつくり出されて、私たちの生活にどれだけ役立っているか普段は考えてもいない。
物を計測するために、必要な「単位」はどのようにつくり出され、どのように活用されてきたのか、どのように文明を築くのに役立ってきたのか。
著者は、計測が「言語と娯楽と同様に認知能力の礎」であり、文明を作ってきたという。
計測は文字と数の発明と不可分な関係にある。
ナイルの洪水を予測する川の水位を計測するナイロメーター施設の見学から始まり、度量衡が統一され、世界を大きく変えていくプロセスを語る。
現代の社会は、数字へのこだわりが強くなる一方だ。
しかし、科学的計測が万能であると誤解してはならない。計測することができないかけがえのない広大な世界が無限にあることも忘れてはいけない。
草花の美しさを数値に表すことはできない。一人ひとりのかけがえのない命の価値を数値に表すこともできない。
(はじめに)抜粋
計測は、言語や娯楽と同様に認知能力の礎である。計測のおかげで世界の境界に注目し、直線がどこで終わり、秤がどれだけ傾くかを確認することができる。現実の一部を別の部分と比較して、その違いを説明することによって、知識を支える足場を組んでいく。
計測とは、知性を山盛りにしたご馳走のようなもの。
計測のルーツは文明のルーツと深く関わっており、古代エジプトやバビロニアまで遡る。建築や貿易や天文学に一貫性のある単位を当てはめることを世界で最初に学んだ。
そして新たに発見した計測の力を使い、神や王のために高くそびえる記念碑を検討し、星図を作成した。
やがて計測単位は発達し、権威を象徴するツールになった。権力者はこれを特権とみなし、自分の思い通りに世界を組織するために計測を利用した。
一方、正確な測定を研究対象とする科学の計量学は、自然界の解明につながった大発見の一部と深く深く関わっており、宇宙の中で地球の位置を見直すために役立った。
さらに計測は、社会そのものを映し出す鏡でもある。その鏡を見れば、何が高く評価されるのかが明らかになる。
計測とは選択であり、ひとつの属性だけに注目し、他は全て排除される。