読書逍遥第324回『南蛮の道』司馬遼太郎著
冨田鋼一郎
有秋小春
全世界(空間)と500年の世界史(時間)の三次元キャンバスに、壮大な人間のドラマを描き出してくれた科学史。
科学が、グローバル化とナショナリズムの相剋の中で強く影響を受けながら発展・停滞を繰り返す様子が見て取れる。
博物学、地図測量・作成、航海術、医学、薬学、天文学、数学に始まり、物理学、考古学、人類学、生物学、人種遺伝学、植物遺伝学、分子生物学、神経遺伝学、宇宙探査、生成AI、気候変動などなど。
世界中の科学者たちがどのような問題意識で解明に取り組んだかを、全体のピクチャーのなかに収まるように紹介している。
面白いことにジャック・アタリと同様、経済学についての記述は、ほとんど見当たらない。著者も、経済学を信頼に値する科学と見なしていないのではないかとさえ思われる。
今年最も読み応えのあった本。