読書逍遥

第99回 『科学と資本主義の未来<せめぎ合いの時代>を超えて』広井良典著

冨田鋼一郎

『科学と資本主義の未来<せめぎ合いの時代>を超えて』広井良典著

冒頭に日本の総人口長期トレンドのグラフがある。これは示唆に富むものだ。

明治以降の人口カーブは、ジェットコースターのような曲線を描いている。

人口増加を山登りに例えるなら、明治以降の登りは「集団で一本の道」を登り、山頂というゴールを目指してきた。

平成で山頂まで登り詰めれば視界は360度開ける。これからは集団でなく、個人がそれぞれ好きな道を選び、歩めばよい。目的地そのものが多様化していく。

登りと下りの価値観は逆転している。人生後半には、後退りすることに価値を見出そう。
福沢諭吉(1835-1901)は、江戸と明治の二つの異なる時代を生きたことを「一身にして二生を経るが如し」と表現した。我々の世代も諭吉に劣らず「一身にしてニ生を」生きている。

[登りの価値観]
一つだけのモノサシ もつと、もっと。
効率性・生産性・競争力一辺倒、科学技術イノベーション、投資拡大、経済成長偏重

[下りの価値観]
人それぞれの美しい生活。
改めて科学技術は何のためにあるのかが問い直される。

次の蕪村の句は、これからの新しい価値観を象徴するようだ。

⭕️不二颪(おろし)十三州のやなぎかな 
                蕪村

富士山の見える国は十三あるといわれる。春風が富士の頂から吹き下ろすと、十三州の

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冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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