読書逍遥第101回 『中世ヨーロッパ全史』(その3)ダン・ジョーンズ
冨田鋼一郎
有秋小春
この本のなかに徳富蘆花の『自然と人生』を紹介した「宇宙の富」という短文がある。
三坪の狭い庭に神の手を見るという。
「家は十坪に過ぎず、庭は唯三坪。、、庭狭きも碧空仰ぐべく、歩して永遠を思ふに足る。、、静かに観ずれば、宇宙の富は、ほとんど三坪の庭に溢るるを覚ゆるなり。」
春4月の頃ともなると、青白い花が開き、風に散って庭いっぱいを雪のようにしてしまう老いた李の木、隣家の庭から飛んでくる桃、椿、山吹の花びら。庭の一隅にある山梔子は、五月雨の頃白い花を咲かせ、老李のうしろにある桐と手水鉢のそばの八つ手は雨音を響かせる。秋になれば、山茶花が開き、三尺の楓も紅葉し、前の家主の植え残した野菊も咲く。その美しさにはどんな花も及ぶまい。屋後の銀杏は秋が深まると、満樹、金よりも黄となり、凩が吹けばハラハラと散る。」
三坪の庭は神が創りたもうた「宇宙の富」が凝縮したパラダイスとなるのだ。
著者のおかげで、徳富蘆花の美文も知る。
⭕️ 三徑の十歩に盡きて蓼の花 蕪村
[アメジストセージ]