読書逍遥

読書逍遥第147回 『地球曼荼羅 世紀末を歩く』森本哲郎著 (その2)

冨田鋼一郎

この本のなかに徳富蘆花の『自然と人生』を紹介した「宇宙の富」という短文がある。

三坪の狭い庭に神の手を見るという。

「家は十坪に過ぎず、庭は唯三坪。、、庭狭きも碧空仰ぐべく、歩して永遠を思ふに足る。、、静かに観ずれば、宇宙の富は、ほとんど三坪の庭に溢るるを覚ゆるなり。」

春4月の頃ともなると、青白い花が開き、風に散って庭いっぱいを雪のようにしてしまう老いた李の木、隣家の庭から飛んでくる桃、椿、山吹の花びら。庭の一隅にある山梔子は、五月雨の頃白い花を咲かせ、老李のうしろにある桐と手水鉢のそばの八つ手は雨音を響かせる。秋になれば、山茶花が開き、三尺の楓も紅葉し、前の家主の植え残した野菊も咲く。その美しさにはどんな花も及ぶまい。屋後の銀杏は秋が深まると、満樹、金よりも黄となり、凩が吹けばハラハラと散る。」

三坪の庭は神が創りたもうた「宇宙の富」が凝縮したパラダイスとなるのだ。

著者のおかげで、徳富蘆花の美文も知る。

⭕️ 三徑の十歩に盡きて蓼の花 蕪村

[アメジストセージ]

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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