読書逍遥

読書逍遥第226回 『モンゴル紀行』(その3) 街道をゆく5 司馬遼太郎著

冨田鋼一郎

『モンゴル紀行』(その3) 街道をゆく5 司馬遼太郎著

イルクーツクにおいて大黒屋光太夫が登場する

江戸中期の数奇な異文化体験者のひとりだ

大黒屋光太夫(1751-1828)
江戸後期の伊勢国奄芸郡白子の港を拠点とした回船の船頭。天明2年(1782年)、嵐のため江戸へ向かう回船が漂流し、アリューシャン列島のアムチトカ島に漂着。イルクーツクを経て、ロシア帝国の帝都サンクトペテルブルクで女帝エカチェリーナ2世に面会して帰国を願い出、漂流から約9年半後の寛政4年(1792年)に根室港入りして帰国した。

大黒屋光太夫のロシア体験(1782から約9年半)と、似たようなアメリカ体験をしたジョン万次郎の体験(1841から約10年)と比較すると面白い。

・どちらも漂流で国外に出たのであって、国外脱出は自分の意志ではなかった。

・光太夫(1782)の方が万次郎(1841)より半世紀ほど早く、万次郎が幕末の動乱期にあたったのとは違う

・異文化体験としては、万次郎のアメリカ体験の方がはるかに濃密だった。ロシアとアメリカの国民性の違いや、万次郎14歳から24歳という多感な時期なのに対し、光太夫31歳から41歳だったこともあるだろう

幕府老中の松平定信は光太夫を利用してロシアとの交渉を目論んだが失脚する。その後は江戸で屋敷を与えられ、数少ない異国見聞者として桂川甫周や大槻玄沢ら蘭学者と交流し、蘭学発展に寄与した。

甫周による聞き取り『北槎聞略』(ほくさぶんりゃく)が資料として残された

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冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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