読書逍遥第139回 『地図で見るバルカン半島ハンドブック』
冨田鋼一郎
有秋小春
副題 生命の境界領域に挑む科学者たち
原題 LIFE EDGE
The Search for What It Means to Be Alive
本書は、「生きる」意味を問う哲学書ではない。
副題通り、サイエンスライターによる「生きている」とはどういうことかについての科学探究史だ。
特に最後の3章は読み応えがあった。
「設計図に必要なデータ」
「見てわかる茂みもない」
「四つの青いしずく」
1859年ダーウィン「種の起源」で残された課題は、「生命の起源」。
アレクサンドル・オパーリン
J.B.S.ホールディン
フランシス・クリック
スタンリー・ミラー
ハロルド•ユーリー
アレック・バンガム
デイビッド・ディーマー
ケイト・アタマラ
ロージー・バージ
スチュアート・カウフマン
レザ・ガデリ
キャロル・クリーランド
リー・クローニンなどの科学者が登場する。
日本人科学者は誰もいない。山中伸弥さんのiPS細胞の言及がないのは残念だ。
生命の起源の探究の視野は、地球を超えて南極アランヒルズ隕石、火星、土星衛星エンケラドスでの地球外生命体探査にまで広がる。
誰もが納得できる「生命の定義」はいまだに存在していない。
人類最大の謎は、宇宙の始まりと並んで、最初の生命登場のメカニズム。
生物と無生物を分かつものは、いったい何なのか?
「私たちは、生命という言葉が自分たちにとって何を意味するかを知りたいわけではありません。生命が何であるかを知りたいのです。」
個々の科学者の試みは些細なものであっても、総体として人類は着実に知の地平線を広げていることが実感できた。