読書逍遥

読書逍遥第112回 『ホスピスが美術館になる日』横川善正著

冨田鋼一郎

『ホスピスが美術館になる日』横川善正著

2010年発行

副題 「ケアの時代とアートの未来」

題名に惹かれて手にした本。アートとケア、ホスピスと美術館、どんな関係があるのだろうか?

表紙見開きには、「20世紀のアートがデザインだとしたら、21世紀のアートはケアである」とある。

しっとりと落ち着いた文章から滲み出る筆者の豊かな感性と温かい人柄が感じられる。例えば、このような文章。

「ユーモアや笑いが良薬になるとすれば、ひとが生きてゆくなかで知る限界を愉しむこと、とりわけ人間の尺度を超えた存在の前において、自らを明け渡す勇気と謙虚さを教えるからだろう。

医療者やケアにかかわる者にとって、ユーモアの感覚とは、副作用のないモルヒネのようなものであり、自分自身の愚かさとちっぽけさを測る体温計のような気がする。

内科医に末期医療でもっとも効果的な「モルヒネ」は何か、と聞いたところ、それは笑い、ユーモアであるとの返事が返ってきた。「苦笑いでもいいから患者の笑顔を引き出すのが医者の腕だね」。

患者をいつの間にか武装解除させ、病状を包み隠さずに打ち明けるまでもってゆくアートの持ち主である。人間にとって、最後に、一番必要な鎮痛剤とは、笑いという「こころの点滴」である。」

筆者は私と同年代、金沢美術工芸大のデザインの先生だ。どうして美大の先生がこのような本を?という疑問は、彼のイギリスとイタリアでの個人的体験が明かしてくれる。

急がす、じっくり、ゆっくりと味わうべき良書!

スポンサーリンク

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
記事URLをコピーしました