読書逍遥第255回『図書館には人がいないほうがいい』内田樹著
冨田鋼一郎
有秋小春
2010年発行
副題 「ケアの時代とアートの未来」
題名に惹かれて手にした本。アートとケア、ホスピスと美術館、どんな関係があるのだろうか?
表紙見開きには、「20世紀のアートがデザインだとしたら、21世紀のアートはケアである」とある。
しっとりと落ち着いた文章から滲み出る筆者の豊かな感性と温かい人柄が感じられる。例えば、このような文章。
「ユーモアや笑いが良薬になるとすれば、ひとが生きてゆくなかで知る限界を愉しむこと、とりわけ人間の尺度を超えた存在の前において、自らを明け渡す勇気と謙虚さを教えるからだろう。
医療者やケアにかかわる者にとって、ユーモアの感覚とは、副作用のないモルヒネのようなものであり、自分自身の愚かさとちっぽけさを測る体温計のような気がする。
内科医に末期医療でもっとも効果的な「モルヒネ」は何か、と聞いたところ、それは笑い、ユーモアであるとの返事が返ってきた。「苦笑いでもいいから患者の笑顔を引き出すのが医者の腕だね」。
患者をいつの間にか武装解除させ、病状を包み隠さずに打ち明けるまでもってゆくアートの持ち主である。人間にとって、最後に、一番必要な鎮痛剤とは、笑いという「こころの点滴」である。」
筆者は私と同年代、金沢美術工芸大のデザインの先生だ。どうして美大の先生がこのような本を?という疑問は、彼のイギリスとイタリアでの個人的体験が明かしてくれる。
急がす、じっくり、ゆっくりと味わうべき良書!