読書逍遥第113回 『旅の半空(なかぞら)』森本哲郎著
冨田鋼一郎
有秋小春
[蕪村受容の歴史]
蕪村の俳句は若々しくユーモアがあり親しみやすい。芭蕉が水墨の山水画だとすれば、蕪村は色彩豊かな油絵のようだ。
しかし、蕪村の魂にたどり着くことは容易ではない。今でこそ芭蕉と並ぶビッグネームだが、世の中に受容されるには長い時間が必要だった。ここに3人の貢献者がいる。
まず、明治の正岡子規。子規によって「発掘」されるまで死後100年以上忘れられていた。
次に、萩原朔太郎。昭和はじめ『郷愁の詩人与謝蕪村』によって、詩人の鋭い感性で魂の根底には、故郷を強く思う気持ち「郷愁」があると喝破してから蕪村ファンが一気に増えることになった。
そして最後に森本哲郎。『詩人与謝蕪村の世界』が昭和44年に出版されて、ようやく蕪村は世の中に「心から理解」されることになった。
子規によって「発掘」、朔太郎によって「理解」、そして森本哲郎によって「心解」。おかげで我々は居ながらにして蕪村の芳醇な世界を自由に散策することができる。