読書逍遥

第60回『木下夕爾その2』

冨田鋼一郎

日当たりの良いところでユキヤナギが咲き出した。

☆☆☆☆☆

  「夜学生」 木下夕爾 

鞭(むち)の影が
地図の上に
のびたりちぢんだりする

先生の声がとぎれると
虫の音が部屋にみちてくる

学問のたのしさ
そしてまた何というさびしさ

本の上に来て
髭(ひげ)をふる
シベリアの地図より青いすいつちよよ

☆☆☆☆☆

薄暗い白熱灯の灯る夜間教室にいる。
学ぶことの不安や寂寥感を抱きながらも、机のシベリアの地図の上にきた青いすいっちょの影に見出すのは、ほんのわずか希望。

受験生だった頃、塾に通っていた自分を思い出す。駆り立てられるように、やたらと知識の断片を詰め込まされた。学んだのは、机の前に座り先生の話を聴くクセ。ほろ苦い懐かしさがある。

人は何のために学ぶのだろう。学びは一生続くと言われるが、いまだにわからない。
「何のため」と意味を問うこと自体が無意味なのかもしれない。

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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