読書逍遥第115回 読書逍遥『ぼくの頭の中』新宮晋著
冨田鋼一郎
有秋小春
日当たりの良いところでユキヤナギが咲き出した。
☆☆☆☆☆
「夜学生」 木下夕爾
鞭(むち)の影が
地図の上に
のびたりちぢんだりする
先生の声がとぎれると
虫の音が部屋にみちてくる
学問のたのしさ
そしてまた何というさびしさ
本の上に来て
髭(ひげ)をふる
シベリアの地図より青いすいつちよよ
☆☆☆☆☆
薄暗い白熱灯の灯る夜間教室にいる。
学ぶことの不安や寂寥感を抱きながらも、机のシベリアの地図の上にきた青いすいっちょの影に見出すのは、ほんのわずか希望。
受験生だった頃、塾に通っていた自分を思い出す。駆り立てられるように、やたらと知識の断片を詰め込まされた。学んだのは、机の前に座り先生の話を聴くクセ。ほろ苦い懐かしさがある。
人は何のために学ぶのだろう。学びは一生続くと言われるが、いまだにわからない。
「何のため」と意味を問うこと自体が無意味なのかもしれない。