読書逍遥

第55回『神々の時代』森本哲郎

冨田鋼一郎

『神々の時代』森本哲郎

昭和35年発行、著者の最初の本。書いたのは35歳。社会部記者として気力、体力充実していた頃だ。
哲学科卒らしく文章はやや生硬だが、現代社会を見る目は鋭い。
既に文筆家としての片鱗が垣間見られる。

人間はじぶんの欲望にあわせて「神」を発明してきた。
人間がつくりだしたさまざまな神が、逆に人間の社会をつくり、神を希求する人間の心情が社会を動かしてきたのではないか。

現代人が神と崇めるものを18個の切り口で書き下ろした。
機械、スローガン、映像、スピード、数字、スター、極地、クスリ、大学、スポーツ、前衛芸術、アイデア、自動車、モード、活字、セックス、組織、人々。

例えば、第5章の「スピード」。
「もっともっと速く」に突き動かされる人間。人は何故急ぐのか。
人間のスピード信仰にまつわる謎に迫る。

第8章の「極地」。
人は何故極地を目指すのか。
とくに時代の変革期には、「遠きものへの憧れ」が目覚め、はけ口を求めて人を極地(未知の地、宇宙そして過去へも)へと駆り立てる。

社会の姿を思索的に観るとはこのような作業なのか。
今でも色褪せていない。

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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