読書逍遥第320回『文明の主役 エネルギーと人間の物語』(その18) 森本哲郎著 2000年発行
冨田鋼一郎
有秋小春
昭和35年発行、著者の最初の本。書いたのは35歳。社会部記者として気力、体力充実していた頃だ。
哲学科卒らしく文章はやや生硬だが、現代社会を見る目は鋭い。
既に文筆家としての片鱗が垣間見られる。
人間はじぶんの欲望にあわせて「神」を発明してきた。
人間がつくりだしたさまざまな神が、逆に人間の社会をつくり、神を希求する人間の心情が社会を動かしてきたのではないか。
現代人が神と崇めるものを18個の切り口で書き下ろした。
機械、スローガン、映像、スピード、数字、スター、極地、クスリ、大学、スポーツ、前衛芸術、アイデア、自動車、モード、活字、セックス、組織、人々。
例えば、第5章の「スピード」。
「もっともっと速く」に突き動かされる人間。人は何故急ぐのか。
人間のスピード信仰にまつわる謎に迫る。
第8章の「極地」。
人は何故極地を目指すのか。
とくに時代の変革期には、「遠きものへの憧れ」が目覚め、はけ口を求めて人を極地(未知の地、宇宙そして過去へも)へと駆り立てる。
社会の姿を思索的に観るとはこのような作業なのか。
今でも色褪せていない。