第16回『複雑化の教育論』内田樹著
冨田鋼一郎
有秋小春
副題:「自分らしさ」と集団はいかに影響し合うのか
原題:The Power of Us(「私たちの力」)
Harnessing Our Shared Identities for Personal and Collective Success
先日、木原武一『孤独の研究』を読んだばかりだ。木原は「孤独は創造の源泉だ」と、孤独を積極的に捉えた。
人はひとり。
人はふたり。
「人は一人では生きていけない」と言われる。本書の原題は、「私たちの力」だ。「私の力」ではない。
「同調圧力(peer pressure)」というと、ネガティブな意味に捉えられる。しかし、私たちは何らかの集団意識の強い影響を受けているのも事実だ。
著者の二人は社会心理学者。集団意識は自分のアイデンティティにどのような影響があるのかを探った。
ソクラテスの「汝自身を知れ」以来、西洋哲学はこの問題にとらわれてきた歴史だ。
本書はその傍流。個人を理解する上で、集団との関係性を無視できない。
東洋哲学はそれと真逆のアプローチだ。
西洋哲学 「自分を忘れるな」
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東洋哲学 「自分を忘れよ」
『草枕』の主人公は、山道を登りながらこう考えたと、冒頭から「知と情の葛藤」について考えている。
漱石は、7つの講演をまとめた本の題名を『社会と自分』と名付けている。どんなテーマも社会と自分に関係しているからだと言う。その意味で、漱石の変わらぬ問題意識は、「社会と自分」に関する事柄だった。
いつまでも付きまとう「社会と個人」の関係。自分の頭の中はあれこれ揺れている。