読書逍遥

第75回『私たちは同調する』バヴェルとパッカー著

冨田鋼一郎

『私たちは同調する』バヴェルとパッカー著

副題:「自分らしさ」と集団はいかに影響し合うのか
原題:The Power of Us(「私たちの力」)
Harnessing Our Shared Identities for Personal and Collective Success

先日、木原武一『孤独の研究』を読んだばかりだ。木原は「孤独は創造の源泉だ」と、孤独を積極的に捉えた。

 人はひとり。
 人はふたり。

「人は一人では生きていけない」と言われる。本書の原題は、「私たちの力」だ。「私の力」ではない。

「同調圧力(peer pressure)」というと、ネガティブな意味に捉えられる。しかし、私たちは何らかの集団意識の強い影響を受けているのも事実だ。

著者の二人は社会心理学者。集団意識は自分のアイデンティティにどのような影響があるのかを探った。

ソクラテスの「汝自身を知れ」以来、西洋哲学はこの問題にとらわれてきた歴史だ。
本書はその傍流。個人を理解する上で、集団との関係性を無視できない。

東洋哲学はそれと真逆のアプローチだ。
 西洋哲学 「自分を忘れるな」
  ⇅
 東洋哲学 「自分を忘れよ」

『草枕』の主人公は、山道を登りながらこう考えたと、冒頭から「知と情の葛藤」について考えている。

漱石は、7つの講演をまとめた本の題名を『社会と自分』と名付けている。どんなテーマも社会と自分に関係しているからだと言う。その意味で、漱石の変わらぬ問題意識は、「社会と自分」に関する事柄だった。

いつまでも付きまとう「社会と個人」の関係。自分の頭の中はあれこれ揺れている。

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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