読書逍遥

第64回『炭太祇(たんたいぎ)の句 その4』

冨田鋼一郎

扨(さて)永き日の行方や老の坂 太祇

季語:永き日(春)
永き日は暮れ泥(なず)む春の季語。なかなか日が暮れないのは人を飽きさせる。その春の倦怠感の行き着く先は、老境。

→永き夜を思ひ消しゆく老の暮 太祇

季語:永き夜(秋)
前の春の句に対して、こちらは秋の句。しかし、思いは同じ。

「思ひ消しゆく」は、「諦める」よりももっと哀切。夢を思い浮かべて、そばから消してゆく。思いついたら、やっておこうとは思うのだが、、、

秋の夜長の寂しさのなかで、見果てぬ夢を追いつつ、それを一つずつ消してゆく老いの日。

秋さびしおぼえたる句をみな申す

秋は寂しさがいっそう募る。だから好きな俳人の共感を覚えた句を片っ端から言ってみる。こんな句があるよ。こんな句も。どう、いいと思わないか?しりとりのように言い合って夜長の時間を消していく。
一人で呟いているとも思えるが、やはり相手がいるととりたい。

思い思いの過ごし方で、老いの時間はたっぷりと与えられている。

樅(もみ)の木の新芽。

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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