第85回『先生はえらい』内田樹 ちくまプリマー新書2005
冨田鋼一郎
有秋小春
扨(さて)永き日の行方や老の坂 太祇
季語:永き日(春)
永き日は暮れ泥(なず)む春の季語。なかなか日が暮れないのは人を飽きさせる。その春の倦怠感の行き着く先は、老境。
→永き夜を思ひ消しゆく老の暮 太祇
季語:永き夜(秋)
前の春の句に対して、こちらは秋の句。しかし、思いは同じ。
「思ひ消しゆく」は、「諦める」よりももっと哀切。夢を思い浮かべて、そばから消してゆく。思いついたら、やっておこうとは思うのだが、、、
秋の夜長の寂しさのなかで、見果てぬ夢を追いつつ、それを一つずつ消してゆく老いの日。
秋さびしおぼえたる句をみな申す
秋は寂しさがいっそう募る。だから好きな俳人の共感を覚えた句を片っ端から言ってみる。こんな句があるよ。こんな句も。どう、いいと思わないか?しりとりのように言い合って夜長の時間を消していく。
一人で呟いているとも思えるが、やはり相手がいるととりたい。
思い思いの過ごし方で、老いの時間はたっぷりと与えられている。
樅(もみ)の木の新芽。