読書逍遥

読書逍遥第227回 『モンゴル紀行』(その4) 街道をゆく5 司馬遼太郎著

冨田鋼一郎

『モンゴル紀行』(その4) 街道をゆく5 司馬遼太郎著

[モンゴル人の先祖、匈奴について]

モンゴル高原の騎馬民族が中国の史書に出現するのは、紀元前318年である。その後百年ほどして匈奴帝国が樹立し、南下して漢民族の地を侵した。

このとき、中国を統一して漢帝国を興こしたばかりの漢の高祖はみずから大群をひきいて大同付近で戦ったが、匈奴三十二万人に包囲され、身をもって脱出し、のち娘を匈奴の単于(王)に送って妻とし、さらに年々莫大な貢物をモンゴル高原に送り、単于をもって兄として事えるという屈辱的な関係をもった。これが匈奴が史書にあらわれる最初である。

匈奴がどういう人種であったかは、よくわからない。漢字に音が移される言葉の片鱗からみればモンゴル人であり、その体型について表現されているところではスキタイのような白人に似、あるいはモンロイドの一派の古代トルコ人だったのではないかと言われたりする。

この紀元前の匈奴が何者であるにせよ、その生活形態をほぼ生き写しにしていまなお踏襲している世界唯一の民族が、モンゴル人である。

中国の周辺国家というのは、ことごとくといっていいほど中華の風を慕い、中国文明を取り入れた。朝鮮とベトナムにおいて最も濃厚で、日本もその例外ではない。

ところが、モンゴル人のみが例外なのである。

彼らは来来、中国文明を全くといっていいほどに受け付けず、むろん姓をつける真似もせず、また衣服その他風俗を変えず、言語の面でも多少の借用語があっても、その数は極めて少ない。

かれらは大陸内部において元帝国をつくったが、そのときも中国文明を拒絶した。元帝国がほろぶと、温暖の中国に愛着を持たず、さっさと集団で朔北の地に帰った。ふしぎな民族というほかない。

[ニンニク]
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冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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