短冊

任口上人筆「身やことし」句短冊幅

冨田鋼一郎

身やことし高野でならば花の春 任口

季語:花の春(春)新年の美称。
桜を謳歌する高野で、ことしは清々しい新年を迎えることができたことよ。
芭蕉の「野ざらし紀行」の旅中伏見で、任口上人と会って次の句を詠んでいる。

伏見西岸寺任口上人に逢て
わが衣(きぬ)にふしみの桃の雫せよ

花は桜の別名であり、賞美のこころを含む。「花の春」は、華やかさ、生命力をたたえたことばである。「花の春」で思い出すのは、蕪村『安永三年春帖』巻頭にあるつぎの三ツ物の蕪村の発句、

花の春誰ソやさくらの春と呼 蕪村
若くさの戸の二日月ぞも 雪店
雉子(きゞす)啼孤村の夕(ゆふべ)水見へて 宰町

花は桜の花を指すからといって、「さくらの春」などと言ってもらいたくない。そんな野暮なことを言うのはいったい誰なのかと、軽く戯れた。

任口上人(にんこう しょうにん生年不詳-1686)

京都伏見西岸寺第三代住職。任口は俳号。芭蕉との最初の縁は定かではない。『野ざらし紀行』の旅中伏見で任口上人に会って「わが衣に伏見の桃の雫せよ」と詠んでいる。

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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