蕪村の関東遊歴時代の研究
冨田鋼一郎
有秋小春
鹿追ひや暁聲に雲を裂 周挙
季:鹿の声(秋)
晩秋、長くなった夜が白々と明けてくる。鹿を追うために山に分け入ってみると、哀切をおびた雄鹿の声が響きわたる。雌鹿の気を引こうと鳴いているのだ。交尾期になり、雄鹿は盛んに鳴いて、雌の気を引こうとする。その鳴き声はヒヨヒヨヒューヒューと、遠くで聞くと哀れを催す寂しい声である。
「暁聲に雲を裂(あかつきこえにくもをさく)」との簡潔な表現によって、明け方のひんやりした空気になかで雲を切り裂くかのような鹿の声に、こちらの身も引き締まる。「暁台句集」に所収。
暁台は秋と冬に佳句が多い。また、暁台は句中に「暁」を多用し、「暁台句集」では秋の部に4句、冬の部に4句ある。
暁や雨も頻にむしの聲
夜すがらや暁の鐘にけふの月
鹿追ひや暁聲に雲を裂
暁の寝すがた寒し九月蚊帳
暁や鯨の吼るしもの海
さむそらやたゞ暁の峯の松
暁をまぐれて行やむらちどり
暁や榾焼そへる山おろし
江戸中期の俳人。久村氏とも。本名、周挙。別号暮雨巷など。名古屋の人。天明俳諧中興の士を以て任じ、二条家から花の下宗匠の免許を受けた。蕪村らと交流。桜田臥央編「暁台句集」がある。