三上角上筆「月の宮」自画賛マクリ
冨田鋼一郎
有秋小春
蝉花の事 紅葉
去年の事であつた。麦人子が物好に奇題のみを取つて詠んだ十数句を示した中に、蝉花(せみばな)と云ふのが有つた。どんな物で、又何の書に出て居るのかと訊ねると、奇淵の著はした捨遺四季部類、一名を新季寄と云ふのにあるとの事で、早速其書を持つて来た。自分は始めて見るのであつたが、嘗て月並のひねりやから聞いた時鳥の落し文などといふのも、是に出て居るので、或は龍登る(二月の生類の部で、龍の天昇は凄い)又は、怪むべき事ではないが、業平忌であるの、雁瘡であるのと、実に希有なものを好くも寄せるある。其中の蝉花であるから、是又一通りで解(わか)るではない、成程図入に成つて、註も加へてある。・・・・
原稿6枚半
明治34年9月10日「俳藪」第2号所収。『紅葉全集』第9巻「俳句・初期詩文」384ページ
小説家。名は徳太郎。号は「縁山」「半可通人」「十千万堂」「花紅治史」など。物語の巧みさと艶麗な文章で、圧倒的人気を獲得、泉鏡花・小栗風葉・柳川春葉・徳田秋声らの逸材を出した。作「多情多恨」「金色夜叉」など。