定点観測 3月9日の牡丹
冨田鋼一郎
有秋小春
「花はさかりに、月はくまなきをのみ見るものかは」
『徒然草』(百三十七段)
花はなにも盛りにだけ鑑賞するものではない。月は煌々と照り輝いている夜だけを眺めるものではない。
むしろ、雨の降る夜にかくれている月を想い、満開の花より、これから咲こうとしている梢を見上げたり、すっかり花が散ってしまった庭をしみじみと眺めるほうが、ずっと味わい深いではないか。
やがて咲くから、やがて散るから美しい。四季の移ろいのなかに暮らす。流転の世界に住む。「万(よろづ)の事も、始終こそをかしけれ」
「不完全な美」を見る者が想像力で補い、心の中で完全な物として仕立てることができる人が「なまめかしく」「奥ゆかしい」。
紅葉の散りぎわを満喫して、兼好法師の言葉を読み直す。
四季を味わえる日本に暮らし、『徒然草』を読むことができるありがたさ!
深呼吸して、深く人生を省みる。
[月見草]
[ホトトギス]