日々思うこと

不完全な美

冨田鋼一郎

「花はさかりに、月はくまなきをのみ見るものかは」

『徒然草』(百三十七段)

花はなにも盛りにだけ鑑賞するものではない。月は煌々と照り輝いている夜だけを眺めるものではない。

むしろ、雨の降る夜にかくれている月を想い、満開の花より、これから咲こうとしている梢を見上げたり、すっかり花が散ってしまった庭をしみじみと眺めるほうが、ずっと味わい深いではないか。

やがて咲くから、やがて散るから美しい。四季の移ろいのなかに暮らす。流転の世界に住む。「万(よろづ)の事も、始終こそをかしけれ」

「不完全な美」を見る者が想像力で補い、心の中で完全な物として仕立てることができる人が「なまめかしく」「奥ゆかしい」。

紅葉の散りぎわを満喫して、兼好法師の言葉を読み直す。

四季を味わえる日本に暮らし、『徒然草』を読むことができるありがたさ!

深呼吸して、深く人生を省みる。

[月見草]

[ホトトギス]

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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