今日の折々のことば
冨田鋼一郎
有秋小春
すじ雲には、漱石『三四郎』のなかに素晴らしい表現がある。
☆☆☆
「何を見ているんです」
「中てて御覧なさい」
「鶏ですか」
「いいえ」
「あの大きな木ですか」
「いいえ」
「じゃ何を見ているんです。僕にはわからない」
「私さっきからあの白い雲を見ておりますの」
なるほど白い雲が大きな空を渡っている。空は限りなく晴れて、どこまでも青く澄んでいる上を、絹の光ったような濃い雲がしきりに飛んで行く。風の力が烈しいと見えて、雲の端が吹き散らされると、青い地が透いて見えるほどに薄くなる。あるいは吹き散らされながら、固まって、白く柔らかな針を集めたように、ささくれ立つ。美禰子はその塊を指さして言った。
「駝鳥の襟巻(ボーア)に似ているでしょう」
☆☆☆
⭕️秋高し吾白雲に乗らんと思ふ 漱石
「白雲」は漱石の理想郷。
クリスマスローズの若葉
ホトトギスの莟