作品・本・人物紹介

蕪村の特徴ある人物表現(その5)

冨田鋼一郎

紙本淡彩「晋我翁(北寿)図」

落款 「浪華四明」
印  「四明山人」「淀水」

早見晋我翁(はやみしんが 老号「北寿」)は、蕪村が過ごした結城において酒造業を営む豪商。1745年、75歳で没するまでの最晩年の三年間、45歳も年下の蕪村を温かく迎え入れてくれた人物。

晋我翁を第ニの父親と仰ぐ蕪村の敬愛の情は、前屈みで紋付きの羽織姿、面長で福耳・垂れ目の表情と仕種によく現れている。

晋我翁の晩年は、身も心も満ち足りた幸せな晩年だったことが窺える。

なお、蕪村には晋我翁を悼んだ有名な新体詩「北寿老仙をいたむ」がある。

「北寿老仙をいたむ」冒頭の一節は、次の通り。

「君あしたに去ぬゆふべのこゝろ千々に
 何ぞはるかなる
 君をおもふて岡のべに行つ遊ぶ
 をかのべ何ぞかくかなしき」

悲しみにくれる心情は、まるで明治時代の詩のようなリリシズム。江戸時代にこのような西洋的で近代的な詩を作った人はいない。近代精神はもう蕪村の近くまできていた。

この絵画と新体詩「北寿老仙をいたむ」とは今後セットとして鑑賞されることになるだろう。

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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