読書逍遥第111回 『生きるとは、自分の物語をつくること』『記憶の科学』
冨田鋼一郎
有秋小春
「引力の事」
福沢諭吉『窮理図解』より
「水の事」「風の事」「雲雨の事」「雹雪露霜氷の事」に続いて「引力の事」の章の紹介がある。
「空々茫々たる広き天に、数限もなき星の列なりて、開闢の始めより今日に至るまで、其行列を乱ることなきは、皆引力の致す所なり、宇宙こそ洪大とやいはん、無辺とやいはん」と、ほとんどパスカル的感銘をはらんだ場にまで読者を導いてゆく。
漱石『猫』でも引力の話が出てくるので、ニュートン万有引力は既に明治の世では知られていた。
その半世紀も前1830年代、文政の時代には崋山が興味深い「地球図」を描いている。この時期に地球には引力が存在していることをこれほど明快に表現したものを知らない。
宇宙開闢以来、138億年にわたって引力という物理学の法則が貫徹している。
[渡辺崋山書簡「地球図」]