読書逍遥第187回 『細胞』(上・下)(その6)ジッダールタ・ムカジー著
冨田鋼一郎
有秋小春
其角、嵐雪、惟然、凡兆、去来、丈艸、史邦、木導、一笑。芭蕉門下の九名の俳人を取り上げている。
森銑三の解説文にある「祖述ではなく創作である」は、至言である。
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『蕉門の人々』には俳諧随筆という冠称が附してある。序文には、「ただ作品を通して直接その人の面目を窺おうという、おぼつかない試みの一に過ぎぬ」と断ってある。
しかしながら本書の著者は古句を心解し、味読することにおいて、いわゆる研究家を任ずる人びとの到達し得ない世界に住している。おぼつかない試みというのはもとより遜辞で、著者の態度はあくまでも手堅く、また手強い。
作品そのものを仲介として、蕉門の諸作家に肉薄し、膝詰談判に及ぼうとする。そこに息の詰まりそうな緊張した気分さえ伴っている。
本書の内容は、祖述ではなくて創作である。随筆とは銘打ってあっても、ただの漫文や雑文とはわけが違う。全体が渾然とした作品に成っている。その点に及び難い感を抱かせられる。