第3回「外山滋比古著『ライフワークの思想』」
外山滋比古著『ライフワークの思想』
外山滋比古(1923-2020)さんの文章は、卓抜な比喩を用いてわかりやすい。
「言葉こそ心を伸ばす総合栄誉」。
最近心に留まり、書きつけた文章をご紹介する。
新しい言葉を手にするために、辞典は手放してはいけないな。
「ところで、わたしたちにとって本当の幸福とは、いったい何か。
もちろんお金も必要だ。住むところもいる。おいしい食べ物もほしい。
しかし、それだけでは生きがいと幸福は生まれない。心の薬がなくてはいけないのである。
つまり、人からほめてもらうことだ。人をほめること、これがいまの世の中でいちばん欠けている。褒めるというのは教育の基本でもある。叱ってばかりいては伸びない。褒めてやるとほんとにできるようになる。ーー
最後に、ことばによって、長生きをし、若々しくなる方法をご紹介しておきたい。
赤ちゃんが生まれて三十ヵ月もすると、すっかり人間らしくなるが、それは言葉を習うからだ。言葉こそ心をのばす総合栄養である。
ところが大人になると、もうあまり言葉を覚える努力をしなくても生きていかれる。言葉の刺激が少なくなるのだが、それとともに心の老化が始まる。
(現役を退いた男性には、言葉の刺激が限られがちだから、生気を失ってしまう人が見受けられる。)
言葉に注意し、新しいことがらに興味をもっていれば、心の老化は進まない。
そういう生活の条件がないときに若さを保つにはどうしたらいいか。いちばん簡単なのは、新しい言葉を毎日少しずつ覚えることだろう(外国語だけでなく地名、人物名などの固有名詞でもいいだろう)。
子どもに比べてはるかに覚えは悪いが、それだけ心が老化している証拠だ。一生懸命に勉強していると、だんだん「童心」に近くなる。童心がなくては言葉は覚えられないからだ。童心が若さをもたらす。
心が若くなれば、それはやがてかならず、外にもあらわれて、見るからに、若々しくなるだろう。
その上、知的な美しさを漂わせるはずだ。心のお化粧だ。それは洗っておちない。汗をかいても崩れることがない。
ことばこそ不老長寿、美容の妙薬という訳である。
さらに、気がついてみたら頭もよく働くようになっていたとなるはずである。」