マイケル・マカロー『親切の人類史』2022年12月
副題:ヒトはいかにして利他の心を獲得したか
予想に違わずすごい本に出会えた!眼前でパノラマ映画を見せられたように感じる。
昨日からトルコ南部の大地震で各国が迅速に支援部隊派遣が報じられている。
著者は、人類史上今の時代は「思いやりの黄金時代」と言い切る。人は生まれながらにして利他的なのか。これに対して懐疑的な人も根強くいる。
諸科学で得られた知見のピースを上手に繋ぎ合わせて「人間の心の進化の歴史」を描いてみせた。
ヒントになったのは、ダーウィンの生物の進化と自然淘汰説。突然変異のように人の心に影響を与えたこれまで1万年の歴史から「心の進化」の跡を辿ってみせた。
狩猟から農耕時代へ、さらに近現代の思想、制度を追って福祉の考え方にまでたどる。
狩猟と農耕、サマリア人の例え、共感、利己と利他、黄金律、アダム・スミスの小指、全知全能のデザイナー、階級の誕生と格差、隠された利己的動機、支配維持のための利他的施策、互恵性、集団と家族、名声の希求、不平等、賦役と貨幣、ルソー、カント、リスボン大地震、神の役割の後退、人道主義の台頭とビッグバン、福祉の概念、政府の責任範囲に、トリアージ、アンリ・ジュナン、赤十字国際委員会、セーブザチルドレン、共産主義
生命科学、社会心理学、文化人類学、考古学、物理学、道徳倫理学、歴史学、経済学、哲学、論理学、社会思想史、経済思想史などのさまざまな学問の知見の組み合わせ方が秀逸。
学問領域はそれぞれ独立していればいいのではなく、宇宙・人類・世界・人生というビッグピクチャーの中に収まるべきピースに過ぎない。こんなことを思いしらされた。
マット・リドレーの『繁栄』、ノア・ハラリの『サピエンス全史』のように、著者の世界観、人間観を知った。
進化生物学と慈善の歴史という観点!このような学際的なことを研究テーマにしている先生がアメリカにいる!
アメリカでは独創的な研究が目につく。オリジナルでなければ生き残れない。競争社会の良い面はこんな所にある。
人は生まれながらにして赤の他人への思いやりの気持ちを持っていたのか。
‘The Kindness of Strangers’ 「他人の親切」。原題からして面白い。
[目次]
思いやりの黄金時代
アダム・スミスの小指
進化の重力
すべては相対的だ
ミスター・スポックへ、愛を込めて
大いなる報酬
孤児の時代
思いやりの時代
予防の時代
第一次貧困啓蒙時代
人道主義のビッグバン
第二次貧困啓蒙時代
成果(インパクト)の時代
理性が導き出す思いやりの理由
[帯文]
なぜ、「赤の他人」に親切にするのか?
ヒトの生物学的形質と人類1万年の歴史にその起源を探る。
目次と帯文を眺めただけでワクワクする。
合理的楽観主義者のマット・リドレーに近いスケールの大きさを感じる。
エピソード満載で「本能と知性のビッグヒストリー」と銘打っているだけに、大いに得ることがありそうだ。
ヒトと他の動物との決定的な違いは「親切」にある!エピソードの一つひとつに興味がある。心が広やかになるのではないか。期待してじっくりとと読み込みたい。
—–
思いやりの黄金時代
動物学における世界最大級の謎
「赤の他人を助ける習性」
ダーウィンの指摘
「ヒトとチンパンジーの間の断絶
最も明白な行動の差異 他者を思いやる能力」
エルサレムホロコースト記念館
死のリスクを冒してまでユダヤ人救出に投じた非ユダヤ人27,362人を表彰
9.11後 NY献血4万人/月
先進国社会セーフティネットワーク 充実
「他人に対する寛大さ」
150年前までは、広範なニーズを満たす責任が国家にあるという考えはどこにもなかった
途上国への人道支援
現代人がここまで他者に寛大なのは驚き
寛大でない理由がいろいろあるから
ヒトの歴史においてもマレ
寛大さの台頭の原因は?
だから寛大になってきたことには、説明する必要がある
4章まで
○「共感=利他的行動仮説」
ヒトには利他的な動機から気遣いをする潜在能力がある。共感によって活性化さる。
○利他的行動懐疑者
共感は常に利他的でなく、利己的な理由に基づく援助を動機づける。利己的動機の例
・苦悩を回避したい
・罪悪感から逃れたい
・道徳的に高潔だと思われたい