チャールトン・ヘストン主演『ベン・ハー』MGM映画カタログ
冨田鋼一郎
有秋小春
漱石さんの『それから』から二つ抜粋してみた。
筋とは直接関係のない個所だが、どれも味わい深い文章だ。
洋灯(ランプ)、蚊帳、刳抜盆、兵児帯、紺絣、蝙蝠傘、肉刀(ナイフ)、肉匙(フォーク)、燐寸、馬鈴薯(ポテトー)等の明治の生活雑貨。
懐かしいアナログ道具に囲まれて、貧しくとも心豊かな暮らしが至る所に散りばめられている。
赤色を伏線として、白百合の香りと雨音が伴奏していくストーリーはともかく、何気ない文章を味わうために本を繰っている。
(抜粋1)
「代助はちょっと話を已めて、梅子な肩越に、窓掛の間から、奇麗な空を透かすように見ていた。遠くに大きな樹が一本ある。薄茶色の芽を全体に吹いて、柔らかい梢の端が天に接(つづ)く所は、糠雨で暈されたの如くに霞んでいる。」
(抜粋2)
「代助は机の上の書物を伏せると立ち上がった。縁側の硝子戸を細目に開けた間から暖かい陽気な風が吹き込んで来た。そうして鉢植のアマランスの赤い弁(はなびら)をふらふらと揺(うご)かした。日は大きな花の上に落ちている。代助は曲(こご)んで、花の中を覗き込んだ。やがて、ひょろ長い雄蕊の頂きから、花粉を取って、雌蕊の先へ持って来て、丹念に塗り付けた。」
細部にまで手を抜かない漱石さん。
この写真は、手動アナログ「日めくりカレンダー」 。
40年ほど前にロスアンゼルスのガラージセールで手に入れた。いまだに机上で健在だ。