作品・本・人物紹介

蕪村「薄見つ萩やなからん此邊(ほと)り」

冨田鋼一郎

『此ほとり一夜四歌仙』其一発句

歌仙『此ほとり』冒頭

⭕️薄見つ萩やなからん此邊(ほと)り 蕪村
  風より起る秋の夕に 樗良
 舟たへて宿とるのみの二日月 几董
  紀行の模様一歩一邊 嵐山

安永二年、蕪村は三人連れ立って重篤な老嵐山を見舞いに行く。枕頭で、思いがけず歌仙を巻くことになる。

「ここに薄あり、さらばこの辺に萩もなからでやは」
薄の風情は老嵐山、萩の風情は頭角を表し始めた樗良を指す。夜半亭蕪村中心とした京都俳壇を表す挨拶句。

『此ほとり』は「俗を離れて高きに遊ぶ」浪漫精神の溢れる蕪村の代表歌仙のひとつ。

今際の際でも「遊び」に興じる。当時の人々にとり、遊びは生きる糧であった。

彫りの深い暮らしとは、季節の移ろいに晒されながら、存分に生を味わってゆくこと。

ホイジンガ『ホモ・ルーデンス』
[遊び]
「人間社会に固有で偉大な活動には、すべて、はじめから遊びが織り込まれている」

「遊びの精神を失った文化は滅びる」

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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