猪口孝さん 2024.12.1産経新聞
冨田鋼一郎
有秋小春
『此ほとり一夜四歌仙』其一発句
歌仙『此ほとり』冒頭
⭕️薄見つ萩やなからん此邊(ほと)り 蕪村
風より起る秋の夕に 樗良
舟たへて宿とるのみの二日月 几董
紀行の模様一歩一邊 嵐山
安永二年、蕪村は三人連れ立って重篤な老嵐山を見舞いに行く。枕頭で、思いがけず歌仙を巻くことになる。
「ここに薄あり、さらばこの辺に萩もなからでやは」
薄の風情は老嵐山、萩の風情は頭角を表し始めた樗良を指す。夜半亭蕪村中心とした京都俳壇を表す挨拶句。
『此ほとり』は「俗を離れて高きに遊ぶ」浪漫精神の溢れる蕪村の代表歌仙のひとつ。
今際の際でも「遊び」に興じる。当時の人々にとり、遊びは生きる糧であった。
彫りの深い暮らしとは、季節の移ろいに晒されながら、存分に生を味わってゆくこと。
ホイジンガ『ホモ・ルーデンス』
[遊び]
「人間社会に固有で偉大な活動には、すべて、はじめから遊びが織り込まれている」
「遊びの精神を失った文化は滅びる」