作品・本・人物紹介

「科学コミュニケーター」の役割について

冨田鋼一郎

10年ほど前の思い出話を一つ。

福島第一原発事故は防ぐことができたのではないかという議論が起きていた頃、ある大学で「科学コミュニケーター」の講演を聴きに行ったことがある。

どんな話をどのように話すのか、そもそも「科学コミュニケーター」とはどのような人なのかを知りたかった。
ポスドクらしい若い女性が壇上にあがった。

採り上げたのは、ヒッグス粒子発見の話題だった。
この発見がどんなに画期的なことなのか、息を弾ませて話してくれた。
よほど胸躍らせる出来事だったのだろう。伝えたいという熱意は伝わってきた。

でも原発事故など全く眼中にないようだった。
何故「影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)」が上手く機能しなかったのか。

質疑で、スピーディーは放射能拡散時の住民退避に役に立たず、専門家のための単なるオモチャだったのかを質問した。

「科学コミュニケーター」とは、専門家と社会の間を繋ぐ双方通行の役割だ。
専門的な事柄を一方的に説明するだけでなく、聴き手として一般の聴きたいことや心情を汲み取り、専門家に届ける役割も担うべきだ。

「科学コミュニケーター」は片手間でできるものではない。
思いつくのがマット・リドレーだろう。
彼のプロフィールには、「科学・経済啓蒙家」とある。スケールの大きな人物だ。啓蒙家とは彼に相応しい。

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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