東ドイツ記念通貨5マルク白銅 未使用ライプチッヒ・トーマス協会図
冨田鋼一郎
有秋小春

箱を出る顔わすれめや雛ニ対
雛店の灯を引く頃や春の雨
夜半翁の句
月渓
「箱を出る」。
桃の節句に姉妹が、箱から二対の雛人形を取り出す。箱の大きさは同じでもそれぞれに愛着のある自分の雛の顔をどうして忘れよう。忘れるはずがない。
「雛店の」。
雛市の店をしまい、灯を消して寂しくなったころ、それまでは雛に遠慮をしていたかのようにしとしとと雨が降ってきた。
春雨の夜にふさわしい情趣の世界。
背景に岡本茂彦の梅図。
呉春(月渓)は、よく師匠の句を賛にして非常に多くの画を描いた。几董、梅亭とならび、師の謦咳に接した。
その傾倒ぶりは、師匠の字と見紛うばかりの書体に伺える。