骨董品

松村呉春(月渓)「蕪村雛ニ句画賛」絹本断簡

冨田鋼一郎

 箱を出る顔わすれめや雛ニ対

 雛店の灯を引く頃や春の雨
      夜半翁の句
          月渓

「箱を出る」。
桃の節句に姉妹が、箱から二対の雛人形を取り出す。箱の大きさは同じでもそれぞれに愛着のある自分の雛の顔をどうして忘れよう。忘れるはずがない。

「雛店の」。
雛市の店をしまい、灯を消して寂しくなったころ、それまでは雛に遠慮をしていたかのようにしとしとと雨が降ってきた。

春雨の夜にふさわしい情趣の世界。

背景に岡本茂彦の梅図。

呉春(月渓)は、よく師匠の句を賛にして非常に多くの画を描いた。几董、梅亭とならび、師の謦咳に接した。
その傾倒ぶりは、師匠の字と見紛うばかりの書体に伺える。

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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