骨董品

松村呉春筆「雪にあと」自画賛幅

冨田鋼一郎
H28.5 x W50.5 (cm)

雪にあとつけてもどるや年わすれ 月渓 印

季語:(冬)年忘れ

紙面に多くの余白を残して、雪深い山里の風景を詩情豊かに描き出した。
年の瀬に相応しい俳画。積雪風景は呉春の得意とするところ。

小さな家が二軒、寄り添うように建っている。あたりの寒々とした雪景色の中にあって、家の中ではきっとにぎやかにいろりを囲んですっかり温かくなっているようだ。家にたどり着くのが待ち遠しい。茶の淡彩で描かれた外壁が家の中の暖かさを伝えている。

ひっそりと脇に添えられた自句も、味わい深い。「雪に足跡をつけて」、足跡をつけたのは、ほかでもない自分。今年もさまざまなことがあったな。あわただしく年の瀬を迎えてしまったことよ。今夜は家族で年忘れといこう。

月渓の俳画は、賛句に師蕪村をはじめ古人の句を多く使用していて、自句賛はめずらしい。自信作だとみえて、いくつか短冊や軸がある。このHPでも2点紹介した。

月渓の筆跡は、天明期と晩年の寛政期とで大きく変化する。天明期の蕪村とみまがう雄渾な筆跡に対し、晩年は女性のような流麗な書風となる。本品は、晩年の寛政期のものである。

松村呉春(まつむらごしゅん1752-1811)

江戸中期の画家。尾張の人。姓は松村、月渓と号したが、姓を呉、名を春と改めた。

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ABOUT ME
冨田鋼一郎
冨田鋼一郎
文芸・文化・教育研究家
日本の金融機関勤務後、10年間「学ぶこと、働くこと、生きること」についての講義で大学の教壇に立つ。

各地で「社会と自分」に関するテーマやライフワークの「夏目漱石」「俳諧」「渡辺崋山」などの講演活動を行う。

著書
『偉大なる美しい誤解 漱石に学ぶ生き方のヒント』(郁朋社2018)
『蕪村と崋山 小春に遊ぶ蝶たち』(郁朋社2019)
『四明から蕪村へ』(郁朋社2021)
『論考】蕪村・月居 師弟合作「紫陽花図」について』(Kindle)
『花影東に〜蕪村絵画「渡月橋図」の謎に迫る』(Kindle)
『真の大丈夫 私にとっての漱石さん』(Kindle)
『渡辺崋山 淡彩紀行『目黒詣』』(Kindle)
『夢ハ何々(なぞなぞ)』(Kindle)
『新説 「蕪」とはなにか』(Kindle)
『漱石さんの見る21世紀』(Kindle)
『徹底鑑賞『吾輩は猫である』』(Kindle)
『漱石さんにみる良い師、良い友とは』(Kindle)
『漱石さん詞華集(アンソロジー)』(Kindle)
『曳馬野(ひくまの)の萩』(Kindle)
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