尾崎紅葉筆「源氏物語を読み侍りて思へる事ども」原稿巻子
冨田鋼一郎
有秋小春
雪にあとつけてもどるや年わすれ 月渓 印
季語:(冬)年忘れ
紙面に多くの余白を残して、雪深い山里の風景を詩情豊かに描き出した。
年の瀬に相応しい俳画。積雪風景は呉春の得意とするところ。
小さな家が二軒、寄り添うように建っている。あたりの寒々とした雪景色の中にあって、家の中ではきっとにぎやかにいろりを囲んですっかり温かくなっているようだ。家にたどり着くのが待ち遠しい。茶の淡彩で描かれた外壁が家の中の暖かさを伝えている。
ひっそりと脇に添えられた自句も、味わい深い。「雪に足跡をつけて」、足跡をつけたのは、ほかでもない自分。今年もさまざまなことがあったな。あわただしく年の瀬を迎えてしまったことよ。今夜は家族で年忘れといこう。
月渓の俳画は、賛句に師蕪村をはじめ古人の句を多く使用していて、自句賛はめずらしい。自信作だとみえて、いくつか短冊や軸がある。このHPでも2点紹介した。
月渓の筆跡は、天明期と晩年の寛政期とで大きく変化する。天明期の蕪村とみまがう雄渾な筆跡に対し、晩年は女性のような流麗な書風となる。本品は、晩年の寛政期のものである。
江戸中期の画家。尾張の人。姓は松村、月渓と号したが、姓を呉、名を春と改めた。