渡辺崋山筆「達磨図」手控帖1
冨田鋼一郎
有秋小春
芭蕉葉をかしらに懸む庵の月
のぼる
季語:月(秋)
元禄5年8月、芭蕉庵に移植したときの喜びの句。「芭蕉を移す詞」参照。
ようやくまた再びこの芭蕉を庵に移植できた。そろそろ仲秋の名月がやってくる。その折には一枚葉を折って、そこに表八句を書いて庵の柱に掛けよう。
崋山は旅中の宿で秋の月を愛でながら、芭蕉句を思いついたのだろう。中秋の名月でなくてもよい。であれば天保二年(1831)秋の毛野国への旅先での染筆かもしれない。右上に満月が描かれている。
「のぼる」について一言。崋山は俳句には「のぼる」の号を用いた。その例は多く存在する。参考までに森銑三の文章をここに引用する。
この登をノボリと読むべきことを、先年来田原の人々が主張している。藩の記録に明らかにノボリと見えているというのである。但し有名な目黒詣の絵巻以下、崋山自身ノボルと書いているものが多数に発見せられている今日、特にノボリというには及ばない。況や崋山自身ノボリとしている実例の一つも見当たらぬに於いてをや」
引用:森銑三『渡辺崋山』