渡辺崋山筆画稿「鹿と人物」その7
冨田鋼一郎
有秋小春
款記 「梔子花」
印 「登」(朱文方印)
崋山の筆のタッチは、このように非常に柔らかい。
そして、蕪村と同様、小さな生命に対する眼差しはどこまでも優しい。
いつでも懐中に片手で持てる手控え帖をしのばせていた。
描く対象は、寺社など建物、寺跡、自然風景、書画、人物、動植物などあらゆるもの。
目で見て、風を肌で感じながら、手で筆を執り、心に刻んだ。
この弛まぬ精進が後の傑作をもたらした。
紙面には紙紐の綴じあとの穴が残っている。
高名な崋山ならではのこと、このようにバラバラにされて散逸し、秘匿されたり行方知らずになってしまった。
「登」印は、バラした際に後人が一枚一枚に押したものだろう。本人がスケッチに押印する事はないから。
ネットオークションに極々稀に作者不明として登場することがある!これはその貴重な一枚。
拙著『蕪村と崋山』に掲載し、解説を付した。