松村呉春(月渓)筆芭蕉「蓬莱に」句賛
冨田鋼一郎
有秋小春
法沈衡斎之意 乙未六月下浣 崋山登
朱文方印「渡邉登印」 白文長方印「鷗保」
沈衡斎は、清朝画人の沈南蘋(しんなんぴん)のこと。鮎を捕らえて今にも飲み込もうとしている鵜を柳の枝から翡翠が見下ろしている。下部の動と上部の静のコントラストが見事である。
諸画集には、まったく同様の絹本「翡翠鵜捉魚図」(サイズ110.0×42.0)が紹介されている。本図は紙本であり、サイズが一回り大きい。構図、落款(款記・印章)とも同一であり、どちらも晩年の研ぎ澄まされた崋山の技量をうかがわせる。
画中の落款によれば、制作は天保6年6月となるが、田原蟄居中、公儀を憚って年紀を5年遡及させた作品のひとつであるとされている。田原蟄居中の日記「守困日歴」天保十一年(1840)七月一日の条に、「画青緑山水、翡翠鵜捉魚二幀、鈴木春山持去」とある。
本図の紙本が出現したことで、検討する余地がでてきた。崋山は同じ絵を2点(絹と紙で)作成したのではなかろうか。鈴木春山が持ち去ったのは、絹本の方である。この紙本は手許に残した。
田原藩医。崋山とは無二の親友。